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第467号 1996(H8).11発行

PDF版はこちら 第467号 1996(H8).11発行

 

 

エダマメ生育障害に対する
被覆硝酸石灰の施用効果

岐阜県農業総合研究センター
環境部 土壌環境科
専門研究員 矢野 秀治

1.はじめに

 岐阜県のエダマメ栽培面積は約270haで,平坦地における露地野菜の主力品目となっているが,近年春ダイコン跡のエダマメ栽培において開花期からさや伸長期にかけて葉の黄化・萎縮などの生育障害が発生しており,生産不安定を招いている。当作型では過去に土壌のアルカリ化に起因すると思われるダイコンの根部障害(こぶ症)が発生したため,その対策として石灰質肥料の施用を控えてきた経緯がある。そこで,pHの低下と障害の発生についての関係を明らかにし被覆硝酸石灰等による対策を検討したので紹介する。

2.障害発生状況

 障害の症状は大別すると黄化症,萎縮症の2種類に分けられた。黄化症は開花期を中心に主に上位展開葉及び側枝に発生し,新葉が黄化するとともに花芽の枯死がみられた。萎縮症はさや伸長期を中心に全葉に発生し,葉の萎縮及び葉脈に沿っての褐色斑点といった症状を示した(写真1)。

3.障害の発生要因

1)土壌の化学性

 現地の土壌化学性の実態を表1に示した。黄化症,萎縮症とも発生ほ場では置換性石灰及び石灰飽和度が低く,これに起因してpH(KCl)がそれぞれ4.5,4.2と正常ほ場(5.2)より低い傾向にあった。易還元性マンガンは正常ほ場と差はないが,pHが低いことにより置換性マンガンが増加し,特に萎縮症発生ほ場では18.9ppmと正常ほ場(5.3ppm)の3倍以上となっている。

 図1に示すように,黄化症,萎縮症ともpH及び石灰飽和度の低下に伴って発生が多い傾向が認められるため,pH(KCl)5.0または石灰飽和度50%以上が安全ラインと考えられた。

 なお,障害発生ほ場では,石灰質肥料の施用率が31%,平均施用量が76kg/10aと,未発生ほ場(100%,107kg)に比べて低くなっており,石灰質肥料の施用と黄化症発生との相関が伺われた。また,石灰質肥料は全体の2/3のほ場で前作(ダイコン)前に施用されており,ダイコン作付中での石灰流亡が考えられた。

2)葉中養分濃度

 生育時期別の葉中石灰濃度の推移を図2に示した。黄化症が発生した株では開花期の上位葉中石灰濃度が1.19ppmと正常株(1.56ppm)に比べて大きく減少していた。葉中石灰濃度は生育に応じて増加し,さや肥大期には正常株と同等になっていることから,エダマメの生育が旺盛な開花期頃(6月下旬~7月上旬)に集中の石灰欠乏が生じた結果,上位葉に黄化症が発生すると考えられた。

 一方,葉中マンガン濃度は土壌中の置換性マンガンと高い正の相関(r=0.883***)にあることから,pHの低下により置換性マンガンが増加し,マンガンの過剰吸収が生じた結果萎縮症が発生すると考えられた。

 障害発生株の葉中石灰,マンガン濃度の散布図を図3に示したが,黄化症は葉中石灰濃度が1.5%以下,萎縮症はマンガン濃度が400ppm以上で症状が発生する傾向がみられた。

3)発生要因

 以上の結果,障害の発生原因は黄化症が土壌中石氏の不足からくる石灰欠乏,萎縮症がpHの低下に起因する置換性マンガンの増加からくるマンガン過剰と推定された。pH低下の原因としては,①石灰質肥料施用率及び施用量が低いこと,② CECが低く石灰の溶脱が多いこと,が考えられ,更に①砂質土壌で乾燥しやすいこと,②マルチ栽培で根域が浅いこと,が発生を助長していると考えられた。

4.現地改善試験

 現地で多発している黄化症を軽減するため,炭カル施用による塩基飽和度の改善効果及び被覆硝酸石灰の施用効果について検討した。試験場所は岐阜市内の障害発生圃場で土壌条件は中粗粒褐色低地土(芝統)である。なお,試験条件は表2のとおりで,被覆硝酸石灰は局所施用(播種穴に同時施肥)とした。

1)pHと葉中マンガン濃度

 開花期におけるpHと葉中マンガン濃度の関係を図4に示した。塩基改善区では塩基飽和度に応じてpHが大きく上昇し,葉中マンガンが低下したのに対して,被覆硝酸石灰区はpH,葉中マンガン濃度ともに対照区と同程度であった。

2)被覆硝酸石灰の溶出パターンと土壌中水溶性石灰濃度

 被覆硝酸石灰(ロングショウカル70タイプ)の溶出パターンを圃場埋設法により定期的に取り出し調査した結果を図5に示した。石灰成分の溶出は施用直後からほぼ直線的となり,エダマメの生育中徐々に溶出し,開花期までに全体の1/2が,収穫期には約80%が溶出した。

 開花期における土壌中水溶性石灰濃度を図6に示した。対照区の土壌中水溶性石灰濃度は0.2mg/100g,と極めて少なかったのに対して,塩基改善区は1.4~3.4mg/100gと塩基飽和度に応じて増加しており,塩基飽和度の改善による土壌中水溶性石灰濃度の増加が認められた。一方,被覆硝酸石灰区の土壌中水溶性石灰濃度は19.5mg/100gと塩基改善区を大きく上回り,同肥料の石灰供給効果が明らかに認められた。

3)葉中石灰濃度と黄化症の発生

 展開第2葉の葉中石灰濃度の推移を図7に示した。葉中石灰濃度は本葉5枚時から開花始期にかけて一時的に減少し以後上昇している。このことから,開花期前後の生体重の急激な増加及び花芽の充実に伴って上位葉への石灰供給が減少した結果,黄化症が発生しやすくなると考えられた。

 開花期前後の葉中石灰濃度と黄化症の発生程度を図8に示した。塩基改善区では塩基飽和度が高いほど葉中石灰濃度が高く推移し,黄化症の発生も18~31%と対照区(58%)に比べて大きく減少した。一方,被覆硝酸石灰区の葉中石灰濃度は塩基改善区を上回って推移し,黄化症の発生も3%と極めて少なかった。

4)収量性

 生育・収量を表3に示した。塩基改善区は分枝数,さや数ともに対照区を上回り,可販収量で11~22%増加した。被覆硝酸石灰区は全区中最も生育が良好で,さや数の増加が著しく,対照区に比べ可販収量で41%,L品収量で68%増加した。

5.まとめ

 以上,塩基飽和度の改善,被覆硝酸石灰の施用ともに,土壌中水溶性石灰濃度が増加し,葉中石灰濃度が高まった結果,黄化症が軽減でき生育・収量の向上が認められた。特に,被覆硝酸石灰の施用は開花期前後の石灰供給が著しく,黄化症防止効果が最も期待できると考えられた。

 石灰の吸収は土壌乾燥条件により大きく抑制されることが知られているが,当地域のような砂質土壌では,元々石灰含量が少ないうえ,夏期高温時の乾燥条件下で石灰の吸収が抑制されやすいことから,被覆硝酸石灰のように生育ステージに合わせて石灰成分が溶出する肥料の施用効果は大きいと考えられる。一方,10a当たり40kg程度の施用量ではpHの改善までは期待できず葉中マンガン濃度は低下しないため,萎縮症発生圃場では塩基改善との併用が必要と考えられた。

 また,現地の施肥体系は基肥,追肥ともにマルチ上に施用されることが多いため,施肥効率が低いうえに,窒素の流亡も懸念される。本試験では,被覆硝酸石灰を播種穴に同時施用したが濃度障害はみられず,約30%の減肥が可能であった。今後,被覆硝酸石灰(ロングも含めて)を局所施用することにより施肥効率が向上し,環境保全面からも効果が期待できると考えられる。

 

 

コーティング肥料による2作1回施肥
(前作ソラマメ,後作ブロッコリー)

秋田県農業試験場 園芸畑作部
専門研究員 田口 多喜子

1.はじめに

 “2作分の肥料を前作の作畝時に1回施用することで,作物の安定生産ができないか”の考えでスタートしたのがこの施肥法である。本誌でも1995年11月号で,長野県中信農試のレタス-ハクサイ二連作一回施肥が紹介されているが,農業技術者,栽培農家にとってはまさに永遠のテーマといえる。

 ここで導入した作目は,前作がソラマメ,後作がブロッコリーである。

 秋田県では,早春ポリポット播きしたソラマメを4月上旬本畑に植付け,初夏に収穫する「春まきソラマメ」の栽培が定着している。その後作としてブロッコリーが導入されているが,耕起・畝立て作業が梅雨末期に当たることから,作畝が遅れ,適期定植ができずに作柄が不安定となっている。

 そこで,導入後作物の養分吸収に合わせた肥料を選定し,前作作畝時に1回施肥することで,天候に左右されずに適期定植ができ,安定生産が可能となる方法について,主にコーティング肥料を用いて1992年から1995年まで検討した。

 その結果,LP40入り高度化成(以下LP苦土安2号-40タイプ)と窒素溶出期間100日のシグモイドタイプの被覆尿素肥料(以下LPS100)の組み合わせにより,栽培期間150日の肥効が確認され,ソラマメ・ブロッコリーの年2作栽培が可能となったので紹介する。

2.供試肥料の選定と施肥設計(表1)

image

 前作ソラマメは,空中窒素を固定する根粒菌作物であり,極度の多肥は根粒菌の着生数を減少させることから,施肥量は窒素成分量で10a当たり15kg前後としてきた。ソラマメの窒素吸収は,定植後から徐々に高まり,開花期から若莢伸長期にかけてピークに達する。このため生育盛期から莢肥大期の土壌窒素水準を一定に保つ必要があり,LP苦土安2号(40タイプ)の施肥効果が高いことをこれまでの試験結果で明らかにしてきた。

 後作ブロッコリーでは,定植から2週以降の肥料吸収を旺盛にし,葉面積を多く確保することが優れた花蕾を得るポイントとされている。このため供試肥料としては, 定植後から徐々に溶け出し,出蕾前までに溶出がピークに達する条件が必要となる。これに合うものとして,コーティング肥料のうち,被覆尿素肥料のLPS100,LPSS100,被覆複合肥料のスーパーNKロング203の100タイプ及び,140タイプを選定した。

 またブロッコリー等の果菜類は,カリの吸収量が品質・収量に大きく影響することが知られている。特に後作ブロッコリーへのカリ吸収を考慮し,硝酸カリコート(1993~1994年)及びLPNK-S100(1995年)を取り上げた。

 施用量については,作付前の土壌分析結果から決定することが重要となる。
 本試験では,慣行施用量を基準とし,10a当たりで前作分12kg,後作分13kgの合計25kg(いずれも窒素成分量)とした。

3.肥料の溶出をコントロールするためのマルチ資材

 供試肥料のうち,LPS100は,25℃の温度条件下で,積算温度750℃で溶出が始まり,2,500℃で80%が溶出される肥料である。

 水稲と違い,水という緩衝材がないため,地温をコントロールするには,マルチ資材に寄るところが大きい。

 導入作物であるソラマメは,冷涼作物であり,定植から収穫までのおよそ90日間の本畑期を,できるだけ涼しい環境で生育させることが高品質・安定生産のカギとなる。ブロッコリーについても収穫目標を10月上・中旬に設定(市場価格安定期)すると,定植期が8月上旬の高温期となる。できるだけ涼しい条件で定植し,活着を早める必要がある。

 供試したマルチ資材(商品名:ミラネスク・ひえひえ~全農)は,表面が白色系,裏面が黒の2層構造で,夏場の地温上昇抑制に効果があるとされるものである。またアブラムシやミナミキイロアザミウマの防虫効果も付与されている。

4.試験方法

(1)試験場所

 秋田農試圃場(細粒質灰色低地土)

(2)供試作物

 前作・ソラマメ(陵西1寸)
 後作・ブロッコリー(緑嶺)

(3)耕種概要

 前作ソラマメの平均的播種目は3月5日(無加温ポリポット育苗),定植は4月12日,収穫は6月20日~7月10日。ブロッコリーは,播種日7月10日(50穴セルトレイ播き),定植8月5日,収穫10月初旬~中旬であった。

 栽植密度は,畝幅120cm,株間30cmの10a当たり2,777株とした。なお慣行施肥のブロッコリーは,畝幅150cm,株間40cm,条間40cmの2条植えで,10a当たり3,333株とした。

(4)作業手順

 4月10日をめどに耕起を行い,その後供試肥料を畝幅全面まき及び畝中央から20cm幅に条まきした。共通肥料であるLP苦土安2号(40タイプ)は全面まきとし,畝立て後マルチを行った。

 所定の栽植距離でマルチに穴をあけ,ソラマメの定植を行い,収穫後に株を抜き取った。マルチは除去せずに,同じ穴に再度ブロッコリーを植付けした。

(5)調査方法

①供試肥料の溶出推移

 供試肥料5g(±0.01g)を,マルチ下10cmにメッシュの袋に入れ埋込みし,スタート時,30日,60日,90日,120日,150日目に抜き取り,残存窒素量を分析,測定した。

②養分吸収量

 ソラマメは,収穫開始期に,ブロッコリーでは,収穫期に至ったそれぞれ生育の平均的な株を1株地際より切除し,供試した。

③品質・収量

 一試験区当たり10株×2反復,計20株を供試し,品質・収量を調査した。

5.結果及び考察

(1)地温の推移

 図3は,1995年の栽培期間の気温と,マルチ下10cmの地温を測定したものである。
 マルチを実施することにより前半の低温期は保温に働き,高温期には抑制気味に働いていることが認められた。

(2)供試肥料の溶出

 供試したコ一ティング肥料の窒素累積溶出率は,LP40(LP苦土安2号中に配合)でソラマメの収穫始めに当たる施肥後70日目で60%,収穫終了期で70%以上であった。LPS100及びLPSS100では,積算温度で約1,000℃・施肥後60日目頃から溶出が始まり,ブロッコリーの定植期直後の施肥後120日でLPS100が約50%,LPSS100は30%の溶出が見られた。

 一方,カリコートの溶出ほぼ直線的に溶け出し,ブロッコリ一定植期にはほとんどカリ成分が残っておらず,有効利用できないことが知られた。同じく供したスーパーNKロング203の140タイプでは,施肥後120日目で窒素が70%,カリが60%溶出しており,ブロッコリーの生育盛期における肥料不足が予想された。

(3)養分吸収量

 ソラマメ・ブロッコリーの株当たり養分吸収量を肥料の種類及び施肥方法別に見ると,前作ソラマメは,スーパーNKロング203(140タイプ)の全面施肥が最も多く,同じく,条施肥がこれに次いだ。このことは,溶出した肥料がソラマメに吸収されたことを意味する。後作ブロッコリーでは,LPS100の条施肥が最も勝った。また,ブロッコリーでは,後作分としてカリを施用しなくとも,窒素の吸収にあわせて地力由来のカリ吸収が十分に行われていることが認められた。

(4)品質・収量

 前作ソラマメの収量(a当たり換算値)は,いずれの区も慣行化成肥料区より勝った。肥料の種類及び施肥方法別では,LPS100条施肥,全面施肥,LPNKS100全面施肥,スーパーNKロング203(140タイプ)全面施肥がほぼ同水準の収量となった。

 後作ブロッコリーの花蕾重は,慣行化成肥料区に比べ試験区で勝る傾向にあった。収量(a当たり換算値)で上回ったのはLPS100条施肥のみで,LPNKS100の全面施肥では同等であった。(注,これは栽植様式の差によるものである。)スーパーNKロング204(140タイプ)では,溶出が早い分(図4参照)だけ後作ブロッコリーへの肥料吸収量が少なくなり減収した。また条施肥を行うことにより慣行化成肥料区より4~7日程度収穫期が早まった。

6.おわりに

 LP苦土安2号(40タイプ)とLPS100を組み合わせることで約150日間の肥効が維持できる。またLPS100では,施肥位置を従来の全面施用から条施用することで肥料の利用効率が高まる。

 経費面では,本試験で計算すると,慣行2作2回施肥に比べ2割程度割高となるが,減肥の方向(今年度検討中)も残されており,経費低減は可能と思われる。

 LPタイプの肥料は,窒素成分量が他の化成肥料に比べ3割程度多く含まれており,窒素の利用率も高い。このことは,肥料散布量が軽減されると同時に肥料溶脱も少なくなる。省力化や地球環境保全の立場から,今後更に検討を重ねて行きたいと考えている。最後に分析に力添えいただいた当農業試験場環境部佐藤福男主任専門研究員に誌面を借りてお礼を申し述べる。